大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所秋田支部 昭和35年(く)4号 決定 1960年6月18日

少年 N(昭一七・四・一四生)

主文

原決定を取消す。

本件を秋田家庭裁判所に差し戻す。

理由

保護者の抗告の趣旨は要するに「原決定の非行事実中第五、第六の事実は事実無根である。又少年は私達保護者や協力者の力によつて在宅補導のもとに社会に適応して行く力を附与し犯罪行為の危険性を取除くことが充分可能であるから矯正施設に収容の必要は全然ないと確信する」というのであり、又少年の抗告の趣旨は要するに「現在自分は充分反省改心し、少年院の生活を送らなくても一人前にやれる確信がある。一日も早く父母の許に戻り自分の力の限りがんばつてみたいからもう一度裁判をやり直してもらいたい」というのである。

保護者の抗告趣旨のうち事実誤認を主張する部分について。

しかしながら少年保護事件記録(昭和三五少第二一六号)中

一、少年の司法警察員に対する昭和三五年二月六日付供述調書(同記録一六四丁)

一、○井○明の司法巡査に対する供述調書謄本(同一七九丁)

一、○森○の司法巡査に対する供述調書(同一七二丁)

によれば、原決定摘示の非行事実中第五、第六の事実が充分に認められ、記録を精査検討するも原決定には他に事実の誤認を窺うべき事由は存しないから論旨は理由がない。

保護者の抗告趣旨中その余の部分及び少年の抗告趣旨(何れも処分の不当)について。

少年保護事件各記録、少年調査記録、当審で取調べた少年の保護者父Aの供述調書等によつて確認できる少年の経歴、家庭環境、性行、本件非行内容、特に原審裁判所の意見によれば「本件を原審に差戻し、在宅保護の方法をとる余地はある」旨の意見が付せられていること、その他諸般の事情を併せ考えれば斯る少年に対しては中等少年院に送致せず、性格の矯正及び環境の調整に関する適切なる保護処分を行うことによりその目的を達しうるものと認める。されば原裁判所が為した決定は著るしく不当な処分というべく取消を免れない。本件抗告は理由がある。

よつて少年法第三三条第二項前段により原決定を取消し、更に相当の審判をなさしめるため本件を原裁判所に差し戻すこととし主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 小友末知 裁判官 石橋浩二)

参考二 (差し戻し後の審判不開始決定)

主文

この事件については審判を開始しない。

理由

少年は当裁判所に送致を受ける前、昭和三五年六月二二日死亡したので審判に付することができないから少年法第一九条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺均)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例